きっかけは,妻がゴミ箱に投げたティッシュだった。
ティッシュはいびつな放物線を描きながら,僕の足元にあるゴミ箱を通り過ぎて床の上に。
仕方なく僕はティッシュを拾い上げ,「ワンモアチャンス」と言いながら妻に投げ返す。
妻は一瞬「へ??」という顔をしたが,「う,うん」とすぐに納得してもう一度ゴミ箱に投げてきた。
再び外す。
入らないなら仕方ないか・・・
ゴミ箱に入るまで付き合ってやろう。
ということで投げ返す。
投げる
外す
投げ返す
5回くらい繰り返した時だろうか。
「違うの,ゴミ箱に入れてくれればいいだけなの」と言われる。
ここで僕は考える。
人生にはさまざまな選択肢がある。
ここで考えられる選択肢は2つ
・ゴミ箱にティッシュを入れる
・ティッシュを投げ返す
今の状況を整理してみると以下のようになる
妻がゴミ箱に幾度となくティッシュを入れられない
ゴミ箱は僕の足元にあり,ティッシュは簡単に捨てられる。
状況的に考えると僕が捨てたほうが効率が良いだろう。
しかし,本当にそれでよいのだろうか?
もしここで僕が捨てた場合,妻はティッシュをゴミ箱に入れられないまま一生を過ごしてしまう可能性が出てくる。
人生において本当に貴重なのは達成したという経験である。
すなわち,ここで僕がゴミ箱にティッシュを捨てるのは効率は良いかもしれないが妻の達成の機会を奪うことになる。
本当に優しいのであれば,ティッシュをゴミ箱に投げ入れるという経験を積ませるだろう。
だから僕は一言いう。
「あぁ,俺優しいからな」
そう言いながら妻にティッシュを投げ返す。
妻は「優しいならゴミ捨ててくれればいいのよ」と言ってくるが,心を鬼にして待機する。
妻が再びティッシュを投げた時だった。
幾度となく投げられたティッシュは徐々にへなへなになっており、ふわりと広がった。
妻は「あー,もう重さが足りない」と広がったティッシュを拾って丸め,新しいティッシュを一枚取り出して元のティッシュをくるんで重さを補強する。
ここまでやるなら仕方がない。
僕も見ているだけでなく手伝ってやろう。
僕はゴミ箱を斜めにして,放物線軌道に入りやすいようにする。
結局,そこからも3回くらいは外していたが,最後には無事妻の投げたティッシュは僕の持つゴミ箱へ入っていった。
やはりこれが愛に基づく優しさというものだろう。
良いことすると気持ちがいいね!